宮本 輝 『錦繍』
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」
元夫婦だった二人が、想像もできない場所で再会する。
一番最初に読んだとき、これから始まる話になんだか緊張感を覚えました。
蔵王の紅葉が眼下に広がる、ゴンドラに偶然乗り合わせる、
なんだか読んではいけないような、そんな切なさがありました。
再会したときの元夫のあまりにやつれた、ただ事ではない容貌と表情から
元妻は手紙を送ります。その最初の手紙の書き出しがこの本の冒頭部分です。
実はこのお話は、すべて往復書簡で成り立っています。
人間にはずるくて、悲しくて、切ない部分がある。
でもそれも含めて生きていかなくてはならない。
とにかく何度読んでも嗚咽してしまうほど感動します。
宮本輝の作品は大体読んでいますが、私はこの『錦繍』が好きです。
タイトルのとおり、秋にぴったりです。
秋の夜長に、深く考えさせられる一冊です。
仙台だてBLOGスタッフ ayu
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