カチアートを追跡して/ティム・オブライエン 生井英考訳

だてBLOGスタッフ

2008年08月20日 19:07



ずっとずっと前にハードカバーで上巻だけ購入したあと、放置し
何年もたってからページを繰ってみたらばはまりにはまった本、
下巻を探しまくったけれども、すでに絶版になっており
おとりよせもままならずに生霊のように心にひっかかっていた。

ついにAmazonで購入しました。
しかも、新潮文庫で一冊にまとまっている!

著者は自らの体験をもとに、繰り返しヴェトナム戦争を題材に
作品を発表しているアメリカの作家。
この作品は、あの、ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』を
抑えてその年の全米図書賞に輝いたというから、文字通りの傑作です。


ある日突然、戦場からカチアートが消えた。
8600マイル彼方のパリを目指して脱走したという。第三分隊は、追跡指令を受け、
一路西へと進むが、神出鬼没のカチアートに翻弄されるばかり。
蜃気楼のようなカチアートに幻惑されながら、彼らが旅路の果てに見出したものは…。
兵士たちの奇想天外な冒険と奔放なファンタジーが交錯する、
ヴェトナム戦争が生んだ最高の小説。

戦争の虚実とかについて、ものすごく考えさせられる
なんてことはほとんどなく、とにかく
ぐいぐいひきこまれて独特のワールドにどっぷり浸る快感。
自分がそこにいるように、空気まで匂ってきそうなのに
不思議と現実感が希薄。

訳者の生井英考さんは大学の先生で、
ご自身にも『ジャングルクルーズにうってつけの日』というヴェトナム戦争関連の
作品があります。
アメリカ人はヴェトナム戦争をどう見てきたか、という視点で描かれた本で
文化人類学者らしく、多数の文学作品・映画・写真集などを例にあげながら
とてもわかりやすく解説がなされています。
戦争関連の本をおもしろかった、と言っていいのか迷うところだけれど
こちらもむちゃくちゃおもしろい作品です。

M・M

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